TIPS
研究をするためには実験機器が必要です。研究室を立ち上げるとなるといろいろなものを購入しなければなりませんが、ピペットマンやピペッターなどの必需 品やチップ、チューブ類のような消耗品を買うだけでも意外に予算を消費してしまいます。どんな実験機器を揃えるかは研究テーマにも依存しますが悩みの種に なることは間違いないと思います。そこで、「実験機器が買えなければ作っちゃえばいいじゃないか!」ということで実験器具を製作しました。
装置一覧(クリックすると該当部分に移動します)
・ケミルミ撮影装置 ・ゲル撮影装置 ・100 均グッズで作る ライトボックス
・GFP蛍光簡易観察装置
ケミルミ撮影装置
ウェスタンブロッティングの結果を得るためにケミルミ撮影装置は欠かせませんが、例えばLASだと数百万~と高価ですし、それより下位のケミルミ撮影装 置も登場していますが、100万円~という価格となっています。最近のデジタルカメラおよびセンサーの進歩は著しいもので、冷却CCDでなくとも低ノイズ 化が進んでいます。天体写真の世界ではLASで使われているような冷却CCDカメラからデジタルカメラに切り替えても十分に綺麗な写真が撮れているため、 星と同様暗く淡いケミルミのバンドも同様にデジタルカメラでも拾えると考え、デジタルカメラによるケミルミ撮影を試みました。①暗室の作製
当研究室には暗室はありませんので、そこからスタートしました。適当なサイズのルミナススチールルームラック(25mm径のポールのもの)と、アンマクヤさんにご助言をいただき完全遮光暗幕および迷光対策用のハ イミロンを購入しました。ルームラックのサイズに合わせ裁断して三方を囲むかたちでルームラックに巻き、バインダークリップで固定しました。残りはカメラ やサンプルを出し入れするため、ハイミロンで囲みつつのれんのように暗幕をバインダークリップで固定します(図1)。ルームラックの上面と下面は、それぞ れの辺よりも長く裁断した暗幕のふちを折り曲げ、ガチャ玉で固定し、箱のフタのような形状(図2)にしてきっちりかぶせます。かぶせる部分の長さが8cm ほどで光の進入を完全に防 げました。暗幕の全景は図3のようになっています。
図1. 暗幕上面 図2. フタをかぶせたところ
図3. 暗幕正面全景。正面ののれんはマジックテープで固定。
②デジタルカメラの選定とセッティング
当方もカメラのプロというわけではないのでベストなものを選べるわけではないのですが、フルサイズのデジタル一眼レフであれば大体撮影可能だと思いま す。目安としては「天体写真に強い」「暗所の撮影に強い」と評判の機種でしょうか。
撮影機材 :低ノイズのデジタル一眼レフ(当研究室ではニコンD600)
:F値の低いレンズ(50mm F1.4)
:接写用スペーサー(12mm程度)
:丈夫なコンパクト三脚
:デジカメをリモートコントロールするためのPC、ソフトウェア、ケーブル等
デジカメ用のリモコンでも撮れなくはないのですが、デジカメ本体だと露出時間の限度があるため、PCに接続してソフトウェアを介してリモート操作するの がベストです。カメラ会社がリリースしている有料のものもありますが、digicamcontrolと いうフリーソフトがかなり優れており、多くのメーカーのカメラをPC操作できます。ノートブックにdigicamcontrolをインストールすれば、撮 影システムのできあがりです(図4)。
図4. 撮影装置全景
③撮影
通常のケミルミ検出と同じようにできます。本当はLASのようにメンブレン-下、カメラ-上という配置にしたかったのですが、そのように使える三脚がな く、接写用の台は高価だったのでメンブレンを黒い箱に貼り付け、三脚に立てたカメラと位置合わせをし、撮影しました。撮影条件はF1.4、 ISO1600~6400程度、露出時間を30秒~3分間あたりでしょう。写真データの記録モードはRAWを強くおすすめします。生データのため、JPEG等の圧縮がか かっているものよりノイズ低減等の調整できれいなデータとなります。重要なことですが、ダークノイズを除去するためにレンズキャップをはめた状態でメンブ レン 撮影と同じ条件でダークフレームを撮影時に撮っておきます。このダークノイズデータはあとからPCを用いてRAWデータのノイズを低減するために利用しま す。カメラの機種によっては、カメラ本体でノイズ低減可能なものもあります。
④現像
撮った写真データをPCに移し、RAW現像ソフト(UFRawなど)でノイズ除去を行います。ケミルミ光は青なので、最終的には白黒→諧調反転を行う必 要があります。 LASなどのイメージャーはそのあたりの処理を自動で行っているのでしょう。
テスト1:デジカメ(ニコンD40)と某社ケミルミ装置の比較
まずはニコンD40という2世代以上?前のデジタル一眼にF1.4、50mmレンズで撮影してみました。D40は古いモデルでAPS-C規格ながら低ノ イズとされている名機です。図5は同一のサンプルを両者で撮影したものです。このように、ケミルミ撮影装置と十分比較できる結果でした。
図5. D40とケミルミ装置の比較
テスト2:ニコンD40とD600の比較
D600は比較的最近のモデルで、フルサイズのハイアマチュアクラスの機種です。図6で同一サンプルを比較していますが、D600のほうが感度がよいた め、より強いバンドとして撮影できました。
図6. D40とD600の比較
テスト3:D600とLASの比較
テスト1と2は、JPEGデータを処理したものです。D600のRAWデータでどこまでLASに迫れるか検討しました(図7)。撮影日時は違いますが、 どちらもチューブリンタンパク質を撮影したものです。比較的バンドが強く出るようなタンパク質のバンドはD600レベルでかなり高精度に撮影できました。
図7. D600とLASの比較
ケミルミ撮影装置は画素数は少ないけど1画素あたりの受光面積が広いことでケミルミの集光力が高いのと、冷却CCDを使っていることによる低ノイズのた め冷却CCDを用いた撮影装置のほうが優位です。今後デジカメの進歩により低ノイズ化、集光力の強化が進めばLASにさらに迫っていけるのではないでしょ うか。ノイズをなるべく低減するコツとしては撮影室 の温度を可能な限り下げておくことです(結露に注意)。また、デジタル一眼レフのCCDにペルチェ素子をつけて冷却CCD化、なんていう荒業も可能ですが。。
ゲル撮影装置
アガロースゲル電気泳動の結果の記録にはトランスイルミネーターとゲル撮影装置のセットは欠かせません。当研究室では最初トランスイルミネーター
のみだったのでゲル撮影装置もいずれ購入しないと、、、と思っていたのですが、撮影装置もデジカメを使用しているものもあるし、フィルターさえかませ
ば問題な いと考え、撮影装置を製作しました。
主な材料 :コンパクトデジカメ
:アクリル板(不透明、2~3mm厚)
:低発泡塩ビボード
:フィルターホルダー(カメラ機材)、自由雲台、レンズフード
:UVカットフィルター(SCHOTTロングパスフィルター[S-GG495]など)
その他すきまテープ、アクリル接着剤、カッター、サークルカッター、ビス・ワッシャ、シリコンコーキング、やすり等
①アクリル板で箱の作製
アクリル板をトランスイルミネーターのサイズに合わせてカットし、切断端をやすりで平らに削ったのち接着剤で貼りあわせ、枠を作ります(図1)。天
面にはフィルターホルダーやカメラ取り付け部を加工するため、今回は加工性の良い低発泡塩ビボードを用いました。これにフィルターホルダー取り付け穴
をサークルカッターで開けるほか、自由雲台を固定するための穴を開けます。天面は接着剤を用いて枠に固定します(図2)。枠の底面部には光の進入を防
ぐために起毛タイプのすきまテープを貼っておきます。
図1. 枠の作製イメージ 図2. 天面の取り付け
現物合わせでフィルターホルダー、レンズフード、自由雲台、カメラ、フィルター等を付けていきます。レンズフードの径は、デジタルカメラのレンズがちょうどスッポリ入る程
度にすることで、無駄な光が入らずに済みます。また、デジカメのレンズがズームで伸びる場合は自由雲台の高さやレンズフード長などで
調節します。図3は撮影に必要なものを一通り天面に装着したものです。天面部のレンズフード下がフィルターホルダーで、そこにロングパスフィルターが装着され
ています。自由雲台を動かしてデジタルカメラのレンズが天面のレンズフードに入れます。完成図が図4です。
図3.
天面部の状況。 図4. ゲル撮影装置全景
写真撮影すると図5のように撮れます。デジカメにEye-Fiなどの無線LAN機能がついたSDカードを入れておくと撮影データをPCに飛ばすこと
ができます。
図5.
アガロースゲル泳動写真
現時点では市販のトランスイルミネーターを使っていますが、青色LEDを使用したゲル照明装置も作りたいところです。
100均アイテムで作るライトボックス 後輩S君(T大学所属)よりご提供いただきました。
フィルムカメラの時代は、リバーサルフィルムの写真を見るためのライトボックスがカメラ屋さんで手に入りました。デジカメ全盛となった今、ライト
ボックスの需要はかなり少なくなったと思われますが研究においては時々必要になるので、これも身近にあるもので作ってみましょう。
<材料>
・白色LEDタッチライト x4、単4電池5本入り x3、シューズケース(プラスチック箱)
x1、アルミホイル、乳白色のクリアファイル、発泡スチール角柱 x1、透明アクリル板(これだけは100均ではないです) →しめて1500円程度
箱にアルミホイルを敷き詰め、LEDタッチライトを配置する。アルミホイルは一度くしゃくしゃにしたものを用い、LED光を乱反射させ、均一に照ら
せるようにします(図1)。
次に箱上部の開口部に乳白色のクリアファイルでアクリル板を挟む(透過台)。発泡スチロール角柱を箱の高さに切断したものを箱に入れ、透過台を安定
して乗せるのに利用します(図1、図2)。半透明乳白色のアクリル板があるならそれを用いてもよいと思われます。
図1. 装置を上から見た状態 図2. アクリル板を乳白色のクリアファイルで挟む
スイッチオンすると図3のようにみえます。
図3.
点灯した状態で上から見る(透過台なし)
<実際のテスト>
軟寒天培地でのコロニー形成アッセイで、クリスタルバイオレット染色してみたものが次の写真です。
図4. スイッチOFF
図5. スイッチON
ん~、コロニーがよく見えますね。暗室に移して確認すると、
図6. 暗室にてスイッチON
さらにきれいに見えますね、1500円の材料費で十二分のクオリティのものができました!!これでSDS-PAGE後のCBB染色や銀染色などにも
効果を発揮するはずです。ちなみに、この手の蛍光灯ライトボックスを実験機器メーカーのカタログで調べると、定価で6万円超えるようです。写真撮影用
のものだとamazonで1万円ぐらいですね。市販品を買うぐらいなら1500円で作製してしまいましょう。浮いた予算で試薬が買えたり、別の機器が
自作できてしまいます。
S君、ありがとうございました。
GFP蛍光簡易観察装置
!注意!この装置からの光を直視すると目にダメージが出る恐れがあります。
GFPなどの蛍光を観察するためには、蛍光照明装置が必要です。しかし、実体顕微鏡に取り付けるタイプの蛍光照明装置でさえかなりの金額がかかり、必要であっても気軽に
購入できるわけではありません。GFPの蛍光は、図1(S65C-GFPの場合)に示すように489nmあたりの光を当てると 511nm
の波長をピークとした蛍光が放出されます。
図1. GFP(S65C)のスペクトル
このため励起波長に近い光をサンプルに当て、放出される蛍光をうまく捉えることさえできれば、通常の実体顕微鏡でもGFPの蛍光を観察することが可
能となります。
<主に準備するもの>
照射装置: 3W LED(青色、470nm)、放熱用アルミフィン、集光レンズ、定電流装置、ACアダプター
観察装置: ロングパスフィルター(SCHOTTロングパスフィルター[S-GG495])